宮本神社「鮎の特殊神饌」

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 伊勢市佐八町(そうちちょう)の宮本神社 (宮司羽根宣之) は古くから伝わる特殊な神饌で知られている。 御祭神の 「天忍穂海人命」 は元々漁を生業とされていたが、 倭姫命が皇大神宮を伊勢に遷御された時、 勅命を受けて宮川の年魚 (鮎) を奉納したことから、 後に土地の氏神として祀られた。 このため宮本神社では、 毎年一月上旬の日曜日に斎行される 「新年祭」 に鮎の 「なれずし」 をお供えしている。
 なれずし作りには三カ月以上を要する。 その年の 「当番」 の氏子六名が、 まず九月から十月にかけて、 宮川で落ち鮎を獲る。 漁は網を使うか、 地元で 「ガリ」 と呼ばれる引っ掛け釣りで行っている。 獲れた中からオスだけを選び、 内臓を取り除いて強めの塩漬けにする。 そしてその年の気候にもよるが、 十二月の上旬頃を目安に本漬けの作業が行われる。
 早朝、 塩漬けを保管している家に当番の六人が集まって作業が開始される。 まず鱗やヒレ、 エラと目玉を取り除いて洗い、 塩抜きをする。 そして、 水切りした鮎の腹に炊きたての白米を詰め、 樽の底からご飯→鮎→ご飯→鮎と繰り返し、 層を作っていく。 鮎百匹に対してご飯二升、 手水として日本酒を約五合と、 かなり多めに使っている。 当番は十年に一度くらいの割合で廻ってくるそうだが、 その年によってどのような味になるのか、 腕の見せ所だ。
 全て漬け終わると樽に落とし蓋をして、 二十キロ程の重石をし、 そのまま三、 四十日置いておくとちょうどいい 「なれ」 具合になる。
 祭典当日、 参列者約五十人が見守る中、 精進潔斎した当番の六名と、 総代二名が整列し、 鮎のなれずしを始め十三台の神饌を本殿にお供えした。
 直会でこの鮎を頂くことが出来たが、 ほとんど癖もなく、 むしろ清廉とも言える爽やかな風味を残してくれた。
 この鮎のなれずし、 明治維新までは暮れの二十八日に外宮内宮の両宮に奉納されていた。 今ではこの宮本神社だけに残されているが、 由緒ある貴重な神饌として、 地元の方々の手で、 いつまでも後世に伝えて頂きたい。
※参考資料
  『宮川のアユ十話』 福所邦彦 著

三重県神社庁「みあかり」第19号